1999年に撮影したクリエイターの部屋

画像をクリックするとポップアップでパノラマが開きます。
別ウィンドウで開きたい場合はこちらのURLからどうぞ。
https://vr-factory.com//pano_files/1999workroomfor2/index.html

コンピューター画面上でインタラクティブに楽しめるパノラマ映像の歴史は、1995年のApple QuickTime VR Authoring Tools Suite 1.0の登場で幕を開けました。おもちゃのような性能のデジタルカメラが世に出始めたころで、まだ仕事で使えるようなちゃんとしたデジタルカメラはなく、フィルム撮影が一般的だった時代です。

QuickTime VR Authoring Tools Suite 1.0はコンピューターソフトウェア、アプリケーションとしてのパッケージが未完成の段階でリリースされた、開発者向けのツールキットでした。Appleは少しでも早くQuickTime VRという技術を広めたかったのでしょう。開発者向けのツールであっただけにマニュアルが恐ろしく丁寧で、撮影機材や撮影方法の詳細な解説(それこそ初心者に一から手取り足取り教えるほどの細かさ、もちろんNo parallax pointの解説も!)、撮影したフィルムをデジタイズする方法、そしてMacintosh Programmer’s Workshop (MPW)の基本的な使い方、MPWシェルに打ち込むコマンドラインの詳細な解説、そして最終的にQuickTimeファイルとして書き出し、すでに存在していたQuickTimeの豊富な機能との連携方法などのテキストが分厚いファイル3冊で構成されていました。初心者でもマニュアルに記述されていることが理解できれば、デジタルパノラマ映像を作ることができるようにデザインされたものでしたが、いかんせん、圧倒的な文書量と、やはり開発者向けというレベルの高さから一般に認知されるようなシロモノではありませんでした。

その2年後の1997年に、アプリケーションとしてパッケージ化されたQuickTime VR Authoring Studioがリリースされ、デジタルコンテンツの開発や制作を手掛けている人たちから注目を集めるようになり、そこからようやくQuickTime VR、デジタル映像のパノラマが世に広まっていくことになったのです。

この「1999年に撮影したクリエイターの部屋」はそんな時代に撮影したパノラマです。この当時はまだ球体(全球、Spherical)パノラマを作ることは不可能でした。なので、天頂と天底の無い円筒型(Cylindrical)パノラマです。上方向、下方向どちらにも画像情報はありません。

撮影に使ったカメラはNikon F5、レンズはAI Nikkor 18mm F3.5Sでした。水平12分割撮影。オーバーラップ(分割撮影を繋ぎ合わせる際の重なり代)が多いのは、この時代のフィルムカメラではパノヘッド(パノラマ雲台)のキャリブレーションが精密にできないなど、撮影精度が低かったゆえの事情がありました。ISO400のネガフィルムで撮影を行い、現像したネガフィルムをKodak Pro PhotoCD 16BASEでデジタイズし、スティッチ合成の素材画像としています。

このパノラマのスティッチはPTGui Pro 13 β5で行いました。今は瞬時にパノラマがレンダリングできて素晴らしいですね。1996~7年はMPW Shellにコマンドラインを打ち込んで、実行=リターンキーを押して、レンダリングが完了するまでに5~6時間ほど掛かりました。夜寝る前に悩みながらコマンドラインを組んで、実行して、朝起きて確認してみて、「ああ、またスティッチエラーが出ちまった~!ちくしょう、パラメーター変えてやり直しだ~!」という苦難の日々の連続だったことを思い出します。苦笑

Kodak Pro PhotoCDはポジフィルムのスキャニングはそれほど悪くありませんでしたが、ネガフィルムのスキャニングには大きな問題があり(ぶっちゃけ、ネガフィルムの持つラティチュードを捉えきれない低性能で、そのためにスキャン時に強制的にAE【自動露出】機能が働いてしまい撮影時の露出がスキャンデータに正しく反映されない仕様だったのです。)、たくさん泣かされました。

まぁ、とにかく、当時はこんな稚拙なパノラマしか作れなかったけど、それでも結構楽しかったんだぜぃ。あはは