伊丹十三監督「スーパーの女」のパノラマ
このイメージをクリックすると360°パノラマが開きます。
私が初めて撮ったパノラマがこの案件です。1996年の春の撮影でした。
旧知の友人から持ち込まれた、伊丹十三監督の映画「スーパーの女」のWebプロモーション用のコンテンツとしてQuickTime VRをやってみないか?という話でした。APPLEがQTVRを正式にローンチした直後のタイミングでしたので、当然、日本にはまだこの新しい技術に関する情報は何もなく、友人がアメリカから取り寄せたAPPLE QuickTime VR Authoring Toolsという開発キットとそれに付随してくる分厚い3冊のマニュアルが、得られる情報のすべてでした。
当時はまだデジタルカメラなどは存在せず、ニコンのカメラでKodakのネガフィルムを使って撮影を行いました。そして、そのネガをKodak ProPhotoCD 16BASEでデジタイズし、.pictフォーマットデータを元画像にしてスティッチします。
マニュアルはとてもとても詳細に記述されていて、それこそ昨日今日写真を始めた人でも作業が進められるように具体的に解説がなされていました。例えばカメラはニコン、レンズはNikkor 15mm、フィルムはKodakのネガカラーISO400を使え、撮影したネガはKodak ProPhoto CD 16BASEでデジタイズしろ等々。もちろんNo Parallax Pointに関する言及もありました。
ただ、撮影する機材、パノラマ雲台(パノヘッド)は当時これを開発したメーカーは存在しなかったため、自作することになりました。手持ちの機材を東急ハンズで買ってきた部材で構成して、なんとかマニュアル指示に沿って撮影できるように努めましが、やはり撮影精度はひどい代物で、スティッチエラーに随分苦労させられました。(この画像は当時のものです。なので、スティッチエラーもそのまま残っています。)
水平方向に分割撮影された12枚の画像をMPW(Macintosh Programmers Workshop)に取り込んで、コマンドラインを組んでアプリケーションを走らせ、画像を繋ぎ合わせます。コマンドラインには「この画像のサイズは☓☓で、FoV(画角)は☓☓°で、重なり合う範囲が☓☓%で修正誤差30ピクセルの範囲でスティッチラインを検知、出力画像(src.pict)のサイズは2496☓768pxで実行」という意味のコマンドを組んで入力して、スティッチを実行します。この程度の画像サイズのスティッチに大体6~8時間、入力パラメーターの値によってはもっと時間を要しました。プログラム実行中は待つことしかできないので、大抵は夜中に計算してコマンドラインを組んでスティッチを実行させて、翌朝に起きて確認して、また入力値の微調整をしてスティッチ実行、といった具合です。
当時杉並区のどこかの駅近くにあったスーパーマーケットを長期に渡ってまるごと映画撮影用に借りて、スーパーマーケットの売り場のシーンはここで撮影されました。スーパーの裏方(バックヤード)部分は世田谷の日活スタジオで、そこでされました。スタジオのバックヤード部分ではセット内をウォークスルーで見て回ることのできるバーチャルツアーをQTVRで組みました。これは我々のチームにとても優秀なプログラマーが居たからこそ当時実現できたものでした。当時はバーチャルツアーを作るのは恐ろしく難しいことだったのです。
とまぁ、昔ばなしはこのぐらいにして、当時の最先端のパノラマをご覧ください(笑)。この頃はまだシリンダリカル(円筒状)パノラマしか制作できませんでした。スフェリカル(球体)パノラマが登場するのはこの7~8年後ぐらいです。たしか。←もう大昔のことで記憶がいい加減です。ははは。
私がパノラマを手掛けるきっかけになったこの案件には、今でも心から感謝しています。ありがとう>関係者ALL